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私が製薬会社に入社してMRになりたての頃、大原課長(仮名)という上司がいた。
いつもおでこを押さえながら「ア〜」だの「ン〜」だの「ハー」だのと独り言を言っていた。
部下が何か質問をしようものなら、「アノー、ソノー、アー、えっと〜。ン〜」などと何を言っているのかさっぱり分からない。
ただし、名誉の為に言っておくが人柄はとても良い人であった。
その大原課長とまだ新入社員だった私は、とある呼吸器ガンの専門医との面談のため同行した。
面談の内容は、大原課長が依頼を受けていた電車の切符をその医師に渡しにいくという単純なものだった。
いつものごとく軽い世間話の導入後、大原課長は医者に切符を渡した。
医者は一通り切符を確認しているようだった...が、急に先生の顔色が変わったのだ。
『俺を誰だと思っているんだ!!』
医者は怒鳴り声とともに、切符を大原課長に投げつけたのである。
その切符はヒラヒラとスローモーションのように舞い上がり大原課長のおでこにピタッ!と貼りついたのである。
「ア〜、ソノ、アノ、エ〜、ア〜」としごろもどろにおでこに手をあてる大原課長。
なんと、呼吸器ガンの専門医に対して、【喫煙席】の切符を手配したのだ!
呼吸器ガンの専門医でも喫煙する医者は沢山いるが、普通は禁煙にするのが一般的であるし、それ以前に切符の手配をするときは必ず確認をするのがMRとしての常識だ。
その後、大原課長はその医者にはほとんど相手にしてもらえなかったのは言うまでもない。
それにしても、切符が舞い大原課長のおでこにピッタリとくっついた映像は、絵に描いたような光景で一生忘れることないだろう。
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